泥水りんごジュース

なんでちゃんと飲んでくれないの

ある蒸し暑い夏の夜

全てがいやになり、眠そうな彼氏の前で久々に泣き喚いて、過去を呪い、今を呪い未来を呪い、恨み辛み、「でもどうしようもなかった。私に”正解”の選択肢は掴み取れなかったけど、どうにか”最善”を選んだ」と鼻水をすすった。

最善を選んだから生きてここにいるんだ、くそ野郎。

 

彼氏はとろりとした目で頭を撫で私を抱きしめた。そのたびに私は「ヤメロ!社会不適合者に伸ばす手なんか一本もねえんだわ、産廃だ、産廃こと私だ、テメエは2年も産廃と付き合ってやがる、バーカ、ざまあみろ、ハハハ、今までありがとう、本当にすまねえ」と騒ぎ、彼の滑らかな手を全力で手を払い除け続けた。

 

彼氏に「燃えるゴミ出すついでに、ファミマで今やってる、ペットボトル一本買ったら2Lの水がもらえるやつ。しにいこう」と言われ、ゴネたのち渋々ついていく。ポケットにしのばせたレインボーヒヨコを夜道で光らせると彼氏はケタケタと笑った。私は顔を強張らせ不機嫌を演出したまま意地を張り続けていたが、暗い夜道が怖くなりとうとう彼氏の腕を掴んだ。

 

合計2500mlの水とともに帰宅し、録画の2355を見ながらまた嫌になってきた私は彼氏を箱ティッシュで数回小突く。少し叱られ、謝った。彼氏はベッドに入ると、オリジナル童話を読んでくれと言った。読むと彼氏は大笑いして「やっぱり  ちゃんはすごいよ」と言って寝た。

彼氏の寝息を聞きながら、私は少し笑った。

 

私は常に崖っぷちにいる。崖下は真っ暗な闇、背後には忌まわしき過去。目の前には生きづらい未来がひしめき、私を四方から圧迫する。だから飛び降りたくてたまらない。ほんのあとひと押しでいつでも落ちる私を後ろから強く強く抱きしめたのが彼氏だ。

こいつのせいで死ねないが、こいつのために生きるのだ。私よ。

 

 

(2020年夏頃のツイートより)